読売新聞 掲載日 [2001/09/29]


卸業者がIT化支援

〜 中小企業の販路拡大に
     存在感高める狙い 〜

  


ベンチャー新世紀



 中小企業の町、大阪府東大阪市の卸業者が、取引先の販売店や工場のインターネットを利用した販路拡大を支援する取り組みを始めている。電子商取引が普及すればメーカーとユーザーが直結するため、その中間にある卸業者は不要になるといわれるが、人手や資金が少ない中小企業のIT化の支援を通じ「卸」の存在感を高めることが狙いだ。

(湊口 智子)

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  宮本さん(左)
 
空き缶圧縮機を開発した工場で、経営者から商品の説明を聞くシロ産業の宮本さん(左)=東大阪市で
 包装資材や計量機器、工場の備品などを東大阪市内の企業に販売するシロ産業(http://www.packjapan.net/)は、2000年末、顧客の町工場の新製品を紹介するコーナーを、自社のホームページの中に設けた。メッキの原材料メーカーから、「新たに開発した工業用手洗いせっけんを全国に紹介したい」と持ちかけられたのがきっかけだった。

 これまでに、このせっけんと、シリンダーメーカーが製造した空き缶圧縮機の2点を紹介した。ともに、メーカー名やサイズの変更が可能かどうか、の問い合わせがあり、全国的なPRの手段がなかった中小企業の経営者らを喜ばせた。

 シロ産業が、自社で取り扱う製品のネット販売を始めたのは96年末だった。専務の宮本泰裕さん(37)は、「当初はほとんどアクセスがなく、会社もそれほど力は入れていなかった」と振り返る。取扱商品も10〜20点と少なかった。

 ところが97年夏、ホームページを見た沖縄県・座間味島の研究者から「ウミガメの子供の重さを量るためのはかりを買いたい」という注文が来たことで、考えが一変した。「インターネット上では、会社の所在地に関係なく商売ができる」と実感した宮本さんは、ベンチャー経営者から電子商店を運営するノウハウを学んだり、機械製造業の関係者がよく閲覧するホームページとリンクしたりして、電子商店の活性化に努めた。

 この結果、地元企業の製品紹介を始めた時には、1日のアクセス件数は10万件を超えるまでになった。宮本さんは、「ホームページを活用すれば、モノ作りの町・東大阪の情報発信に役立つ」と意気込む。10月からは東大阪の商品を集めた専用ページを開く予定だ。

 電子商店  


 切削工具卸の丸一切削工具(http://www.thecut.ne.jp/)は、昨年2月、卸先の機械工具販売店が簡単に電子商店を開設できるシステムを開発した。販売店は規模の小さい業者が多く、工具を購入するメーカーなどに比べ、IT化が遅れていることに注目した結果だ。

 このシステムを利用した電子商店では、丸一の在庫情報も購入メーカーにとっては「商品」と同じことになる。販売店は、実際に商品を仕入れなくても取扱品目が増えるメリットがある。常務の衣斐誠さん(49)は、「卸という形を崩さずに、ネットを活用する方法を考えた」と説明する。現在は、全国の約40社が利用している。

 東大阪商工会議所が今年7月、市内の事業所2293社を対象に実施した調査では、8割以上がインターネットを利用しているものの、商取引に利用している事業所は少ないことが明らかになった。同会議所は、「卸会社の支援は、こうした事業者のIT化に役立つ」と話している。

 

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(C)The Yomiuri Shimbun Osaka Head Office,2001